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小さなタイヤから紡ぐ、大きな可能性
「探すのではない。見つけ出すのだ。」
かのピカソもかつてそう説いたように、新たなものを創造する過程において「先入観に縛られず新しい視点をもつこと」はとても重要。
事実、現在のE-Bikeのメイン市場である「スポーツ用途」だけにとらわれず、「日常の移動」にフォーカスすることで、私たちのビジョンは大きく広がりました。
私たちがまず目をつけたのは、必要以上の出力やスピードではなく、快適性や実用性を優先し最適化することでした。
大は小を兼ねるかのような多段変速ではなく、むしろ万人が扱いやすくシンプルで直感的な操作感が重要であることに気付きました。
視野を広げて他の工業製品に目を向けると、これまでの製造工程とは全く異なるヒントが隠れていることもあります。
やがて私たちは、数ある選択肢の中で「小さなタイヤを備える自転車」に可能性を見出しました。
SMALL WHEELS,BIG POTENTIAL.と題したこの企画では、「小さなボディから紡ぐスマートなライフスタイル」を提案するVICCIが、小径車に大きなこだわりを持つ個性豊かな自転車店主たちと「小径車とE-Bike」から紡がれる今後の可能性について話を聞きます。単なる移動手段としての自転車に限らず、日常生活を豊かにするスマートな選択肢としてE-Bikeを取り入れるために、彼らの話が何かヒントになれば嬉しいです。
Velo style TICKETの田中さんと、小径車
第1回はVelo style TICKETの田中さん。
2008年5月銀座一丁目にて開店し、15年間ショップを運営したのち2023年には現在の築地に移転。少しづつ着実に新たなコミュニティを育んでいる、都内有数の小径専門店です。
実は旧店舗も現在の店舗も徒歩圏内であり、一帯には比較的高所得ファミリー層が多く生活することからも、自転車業界に身を置く人にとっては「電動アシスト需要が高い地域」の一つとして一目置かれるエリアに位置しているのはここだけの話。
そんな背景もあって、田中さんは得意分野である小径車に限らず、さまざまな電動アシスト自転車にも触れ販売している、この道通算25年を超えるベテラン自転車店主です。
-田中さんが小径車に興味を持ったきっかけはなんですか?
もともと勉強させていただいた店で数年、MTB、ロードバイクはできるつもりだったのですが小径車はチェーンリングの歯数やブレーキなど特殊でロードとMTBのパーツがまざってたりホイールの組み方なんかも今までの常識だけでは通用しなかったり色々新鮮で興味が出ました。
-最初に乗った自転車は?
最初に乗った小径車は生意気なんですがMoultonAPBで今でも実家にあります。
-小径一台目がそれはすごいですね!
縁あって知人から譲り受けた感じですけどね。でも、当時は仕事上すでにいろんな小径車に触れていたのもあって、その上でやはり一種の憧れのようなものもあったのだと思います。
-自分のお店の特徴は?
レースや早く走るための機材ではなく、普段の移動の道具としてしっかり使えるものをセレクトしてます。乗るだけの楽しみでなく荷物をたくさん積んでツーリングやキャンプ、気軽にお買い物、輪行で旅行など、+αの楽しみに対応できればと思ってます。
小径車のラインナップは随一だが、他にも26インチや700c、E-Bikeなど、幅広い自転車を独自の視点でセレクト。 |
-確かに、こうやって見てみると小径車だけではないんですね。この辺は田中さん自身の用途も反映している?
そうですね。実際、自分が今通勤で使っているのは26インチをベースにしたクルーザーだったりしますし。
もちろん小径車に注力はしていますが、自分自身そこだけに固執せず幅広く興味を持つようにはしてます。700cも、E-Bikeも、お客様に合ったものをご提案する上での柔軟性や感性は大事にしたいなと思っています。
通勤をはじめとし、普段の生活はSchwinnのクルーザーで。フォークを交換して前後異サイズのタイヤを装着したり、自由な感性でカスタムされている。 |
初心者が自転車を買うときに大事にしたいこと
-ビギナーが良い自転車に出会うには何が大事だと思いますか?
自分だけで希望や条件をきれいに整理できなくても、それを人に伝えることは大事かもしれないですね。
まずは金額でも色でも見た目でも、何でもいい。どういった用途を必要にしてるとか、その人のライフスタイルがどう言うものか、というところは自分たちと話をしていく中で徐々にイメージを共有していける場合も多いので。
そして、最終的に「必要なもの」と同時に「必要ないもの」が明確になっていくと、より求めるものの解像度が高くなると思います。これって実は、製品の口コミを調べるだけでは難しいし、ビギナーにとっては難しい判断を伴うというか。
必要なものはともかく、そうでないものをジャッジするのってやっぱりちょっとハードルが高いじゃないですか?
とはいえ、やっぱりすべての人にハイスペックな自転車が必要なわけではないですし。
不思議なもので、お客様からいただく条件や希望が多い方が、僕たちもやる気が出てくる。(笑)なので、たとえ小さなことでもまずはぶつけてみた方が良いのかなと。
-場所柄でこう言う要望が多いなどはありますか?
都会だからこそ、自転車に乗るだけでなく通常の生活での自転車+αを楽しめる自転車を求められる方が多い気はしますね。それこそ普段着で乗れる、みたいなこともそうですし。
自転車で1時間も走らせれば、洋服など日用品以外の買い物もたいてい済ませられる環境なので、買い物した荷物も自転車にそのまま積める方が良いとか、スピードはそこまで必要ではないけどむしろ小回りや漕ぎ出しにストレスがない方が良いとか。
住環境などで置き場所が自由にできなかったりな場合、やはり小径や折畳みは便利ですし。そういった要望に土地柄は多少なりともあらわれているのかなと思います。
あと、子供の送迎なども自転車でされる方が多く、やはり都内も場所によっては坂があったりするので、最近では、E-Bikeの需要も増えてきました。
-比較的歴史の浅いE-Bikeという乗り物ですが、田中さんはどのような印象や期待を抱きますか?
先ほども少し話に出ましたが、E-Bikeに限らず、自転車選びのご相談を受けた際に自分たちが大事にしていることが「その人にとって何か必要で何が不必要なのか」という点です。
一方で、特に現段階のE-Bikeにおいては、ハイパワー&ロングディスタンスを謳うことが目立っているようには感じますね。
必然的に、購入するお客様も「自分の用途」よりもアシスト周りのスペックのみにフォーカスして検討されている方が多いような印象。
もちろんまだまだ発展途上だと言うことはありますが、やや一極化しており必ずしもユーザーフレンドリーな状況だとは言えないのかなと。
VICCIのV-01のインプレッション
-V-01に乗ってみてどうでしたか?
そういった流れのもとで言うと、やはり現状の中ではある種の「異端児」に映りましたね。
「必要なもの」と「必要のないもの」をとてもハッキリさせている印象です。
今まで扱ったほかのアシスト自転車に比べると、出だしからグッとくるパワーはVICCIにはありませんが、走り始めると十分アシストしてくれますし、変速も無いですが、これはこれで近距離の時や車に積んで旅先で使用するなどロングツーリングやサイクリング用でなく普段使いや近所の移動にはむしろ簡単でベストな感じ。
見た目はE-Bikeらしくちょっと未来的な印象でスッキリしてて、老若男女選ばずオシャレに乗りこなせそうですし。
市場にはハイパワーなものがあって、大容量バッテリーのものがあって、チェーンドライブの自転車があって...「自分のライフスタイルに合った自転車に乗る」上ではこういう自転車の存在は必要じゃないかなと思います。
今後はVICCIのように、その人のライフスタイルに合わせて過不足なく使えるようなE-Bikeが増えてくると、もっと市場が活性化する期待ができますね。
-あなたが思う、V-01で描く「スマートなサイクルライフスタイル」とは?
僕が思うスマートなサイクルライフスタイルは、背伸びしすぎず自分の使い方にあった最低限の装備、性能の自転車での生活。
例えば今の自分の暮らしの場合、自転車は基本駅までの通勤、休みの日の生活の足だけになっています。
なので、必要な要素はライト、パニアバッグひとつ、泥除け程度で十分で、変速は必要なし。
V-01はそんな自分の要望を満たすポテンシャルを持っていますし、もしこの装備のV-01を手に入れちゃったら、今のクルーザーの出番は無くなってしまうかもしれませんね(笑)