小さなタイヤから紡ぐ、大きな可能性
「探すのではない。見つけ出すのだ。」
かのピカソもかつてそう説いたように、新たなものを創造する過程において「先入観に縛られず新しい視点をもつこと」はとても重要。
事実、現在のE-Bikeのメイン市場である「スポーツ用途」だけにとらわれず、「日常の移動」にフォーカスすることで、私たちのビジョンは大きく広がりました。
私たちがまず目をつけたのは、必要以上の出力やスピードではなく、快適性や実用性を優先し最適化することでした。
大は小を兼ねるかのような多段変速ではなく、むしろ万人が扱いやすくシンプルで直感的な操作感が重要であることに気付きました。
視野を広げて他の工業製品に目を向けると、これまでの製造工程とは全く異なるヒントが隠れていることもあります。
やがて私たちは、数ある選択肢の中で「小さなタイヤを備える自転車」に可能性を見出しました。
「小さなボディから紡ぐスマートなライフスタイル」を提案するVICCIが、小径車に大きなこだわりを持つ個性豊かな自転車店主たちと「小径車とE-Bike」から紡がれる今後の可能性について話を聞く企画「SMALL WHEELS,BIG POTENTIAL.」。
前回に続く第2回はBEST SPORTSの小林さん。単なる移動手段としての自転車に限らず、日常生活を豊かにするスマートな選択肢としてE-Bikeを取り入れるために、彼らの話が何かヒントになれば嬉しいです。
BEST SPORTSの小林さんと、小径車
SMALL WHEELS,BIG POTENTIAL.の第2回でお話を聞いたのは、BEST SPORTSの小林さん。
同店は、アウトドアギアやゴルフギアなど幅広いレジャーツールを扱う母体がプロデュースする小径車に特化した自転車専門店で、オンラインストアを中心にその影響力を広げる傍ら、これまで都内を中心に「地域密着型」なスタイルで多様なエリアでの実店舗を展開してきました。
小林さんはそんなお店のキーマンとして、さまざまな場所で多様な客層と関わり合ってきた「引き出し」の多い人物。
現在唯一の実店舗となるBEST SPORTS神田秋葉原店では、国内フォールディングバイクシェアの中から厳選した数ブランドを、圧巻のフルラインナップで揃えています。
-圧巻のフォールディングバイク(折りたたみ)の数ですね。数あるスポーツバイクの中から小径車、中でも特に折りたたみに注力されているのはどういった理由からなのでしょう?
都内を中心に様々な異なるエリアでの出店を経験してきました。最初は幅広い客層に向けて、一般車やクロスバイクなど、多様なジャンルの取り扱いをしていたのですが、いくつかのエリアでの接客を重ねお客様の声を聞く中で、都市圏で生活する方のライフスタイルとフォールディングバイクの持つ利点とのマッチングに可能性を感じるに至り、徐々に現在のお店のスタイルになっていった、という感じでしょうか。
-都会の方におりたたみは相性が良い?
そうですね。もちろん断定はできませんが、いろんな場所でお客様を接客する中で、うちのお店に来る方は移動におけるスピードより小回りや保管時のコンパクトさなど利便性などのメリットを重視される方が多いように感じました。
折りたたみだからといってみんながみんな輪行して旅をするかというとやはりそういうわけでもないんですが、実はそれを上回るメリットもあったりする。そういう気付きも、さまざまなお客さまを接客させていただく中で感じたことでして。今では、フォールディングバイクは都市生活者にとって、とても合理的でスマートな乗り物だと感じています。
-なるほど。では、こちらのお店の強みを教えていただけますか?
取扱ブランドを幅広く増やさずに厳選することで、ブランド本来の持つラインナップや世界観をできるだけ余すことなく提案できるようなお店づくりを心がけています。
そういった背景もあって、特定のブランドにおける展示ラインナップのバリエーションは自信がありますね。スペースの都合もあって全てのカラーバリエーションとまでは行けていないのですが、「車種」単位で言うと常時フルラインナップを展示しており、それらをしっかり乗ってもらって比較検討いただくために、それらの試乗車も常にスタンバイさせています。
-展示だけでなく試乗車もですか?それはすごいですね。
そうですね。やっぱりフォールディングバイクって、それまで縁のなかった人にとっては全く触れてこなかった可能性があるジャンルというか。自転車をある程度乗ってこられた方でも「折りたたみってそんなに走らないんでしょ?」とか「同じブランドの中での複数のラインナップの違いがよくわからない」とかいう声はかなり聞いていたんですよ。
あとは、コロナ禍も経験した上で、リアル店舗が存在する意味みたいなものを考え直す機会にもなりました。弊社はオンラインストアも並行して展開しているのですが、その気になれば購入だけならオンラインでも完結できる時代の中で、敢えてリアル店舗に来店いただく価値はどこにあるか?みたいなことは社内でたびたび議論しました。
-ちなみに、小林さん自身の自転車遍歴はどういったものでしょうか?
自転車を趣味として乗るようになったのはMTBが最初です。現在は、主に通勤で使用するのみになっていますが。笑
-てっきり小径車の愛用者なのかと思いましたが、意外です。
確かに、そうですよね。でも、自分自身は単純にいろんな自転車に好奇心があるのかも。当時はアクティブな趣味を探している中で、先輩など周りの人の影響を受けてダウンヒルなどに連れて行ってもらって、そこから自然とハマって行った感じで。ロードバイクにも触手を伸ばしてみたりはしたんですが、普段には少し気を遣う感じもあって。生活の中では一分一秒を急ぐようなこともなく、太いタイヤで安心感もあるし、結局乗り慣れてるMTBの使用頻度が圧倒的に多いです。
初心者が自転車を買うときに大事にしたいこと
-ビギナーが良い自転車に出会うには何が大事だと思いますか?
「譲れないもの」がはっきりしてるお客様には、こちらからの提案もより具体的にしやすいですね。例えば目の前のお客様が優先するのは機能なのか、価格なのか、見た目なのか。もちろん実際の接客の中では、そこに至る経緯や背景にも細かく目を向けるようにはしてますが、購入までのプロセスの中で、それらの優先度って、最終的には必ず定まっていくものなのかなと感じています。
あとはやっぱり、その上で購入までに実際に検討している自転車を見て触れて、乗る機会を作ることができたらベストです。
実際購入した後にありがちな「思っていたのとは違う」というギャップは、こういった「体験」や「比較」を経ておくとかなりリスクを減らせるのかなと。
-なるほど。
もちろん、真っ白な状態でご来店いただくお客様も大歓迎ですが、今は個人でも色々と情報をリサーチできる時代なので、まずはある程度自分なりに調べていく中で「こだわる」部分を定めていくのもオススメです。
ただ、どれだけリサーチを重ねても、実際に触れられる機会に得られる情報量とはまた別だというのもやっぱり事実であって。
なのでもし、うちで取り扱いをしている製品に興味を持たれている場合は、一度お店にお越しいただいて、ぜひ試乗していただければと思います。笑
-確かに、とても説得力がありますね!ちなみに、比較的歴史の浅いE-Bikeという乗り物ですが、2018年ごろの日本への上陸から現在まで、小林さんはどういう期待や印象を抱いていますか?
E-bikeという言葉の認知は徐々に浸透しているような気はしていますが、その解像度はこれからもっと上げていけるような気はしています。
特に上陸した初期は、E-bike=それまでの電動アシストの一般車と違うもの=「スポーツタイプの高級電動アシスト」という選択肢のみがメディアでもてはやされて一人歩きしていた印象です。だからこそ多くの方にとっては「自分には縁のないもの」とならざるを得なかった。
でも視点を変えて、例えば自動車で言うEV(電気自動車)だと、必ずスポーツタイプなわけではないわけで。それと同じように、現在ではE-Bikeにもさまざまなコンセプトの自転車があるということの認知が深まってきて、やっと追いついてきたっていう印象ですね。
VICCIのV-01のインプレッション
-V-01に乗ってみてどうでしたか?
前述の文脈の中で言っても、V-01はそれまでのE-Bikeの概念としてはあまりなかったキャラクター性を持つ製品だと感じました。
スピード主義でなく気負わずに乗るというコンセプトもそうですし、これまでの電動アシストと変わらないリーズナブルな価格レンジもそうですね。
「電動アシストのパワーの恩恵を受ける」ことって、本来はこれから歳をとっていく誰にとっても当てはまる可能性のあることなので、子供乗せの電動アシストがあって、スポーツタイプのパワフルなE-Bikeがあって、そしてもっと気軽な気持ちで日常生活をスマートにするためのE-Bikeがある。こういう選択肢ができてこそ、やっと一部の人だけのものではない文化として成熟し、お客様に複数の選択肢を提案できるようになったと感じます。
-そう言っていただけると嬉しいです。
細かなディテールにもブランドコンセプトに沿うようなこだわりを感じましたよ。
小径車は一般的に硬さのある乗り心地を感じがちですが、V-01はボディはしっかり、でも太さのあるタイヤでしっかりクッション性は考慮されている印象で、シンプルなルックス同様に、機能面でもシティライドに必要な要素を厳選しそぎ落としているイメージ。
個人的にはアシストのフィーリングにもそういった小さな味付けが感じられて、漕ぎ出しはとてもナチュラルで、中速域以降もやりすぎない程度に、それでいてしっかりアシストはしてくれる印象で、全体通してとても自然に感じるフィーリングだなと。
-では最後に。あなたが思う、V-01で描く「スマートなサイクルライフスタイル」とは?
僕が考えるスマートなサイクルライフスタイルは、気負わずに乗れる自転車があって、いろんな時間や場所をその自転車と共有できるような、そんなライフスタイル。
もちろん個人的には「さあ乗るぞ」って思って乗る自転車も決して嫌いではないのですが、そういうマインドは「スマートな〜」という文脈とは少し違うかなと。
V-01なら、気負わずに乗れて、部屋に持って入って眺めることもできるし、その気になれば旅先にだって連れて行ったり、キャンプなどのアクティビティと組み合わせたり...例えば自分が普段の通勤でも結局MTBに乗ってしまうのと同じように、深く考えず「気軽に乗れる」「長く過ごせる」ことは、結構重要な要素な気がするんです。
だからもし、その人にとって「多くの時間や場所を共に過ごしたい」と思った自転車と出会えたなら、その先にはもう十分スマートで豊かなサイクルライフスタイルが広がっているのかなと思います。